電子書籍が黒船来襲、もしくは救世主降臨みたいに言われているが、その多くは誤解を含めた過度の期待(素人側)と、未知の恐怖からくる決めつけ(出版社から取り次ぎ、はてはせどりまで)の両極端まで様々だ。
大混乱している方々が大半だが、本日はまずは電子雑誌について。
まず、現在の電子版雑誌の大半がいまあるPDFファイルを変換して見せるだけのものである。アメリカのZINIO、日本だと雑誌オンラインとかびゅ〜んとかたくさんあるが、すでに印刷工程で使われているPDFファイルを変換して見せるだけなので、費用が殆どかからない。自分のPDFをページ1000円+1回50000円とかでapp化してくれるサービスもあるが、多くの電子版販売会社は自社で変換できるシステムを保有しているはずだ。雑誌社はそういう販売会社にPDFファイルを渡すだけであとは売上げからマージンを抜いた分が入ってくる。と、一見儲かりそうなパターンだが、日本の場合はそんなにうまくいくわけないと思う。
まず最大の難関が、取り次ぎと書店の存在である。25年くらい前に在籍していたリクルートがDTPに踏み切るときに仕事で調べたことがあるのだが、アメリカの雑誌の多くは通販でダイレクトに消費者に届けられていた。雑誌社の多くは地下とかに印刷機があって自社で印刷もしている。つまり印刷会社にも取り次ぎにも依存してないのである。雑誌の多くは年間購読でまかなわれており、1970年代にも雑誌だけのカタログブックがあった。学生の時、私もこのカタログブックで送金小切手(カードもPayPalも無い時代だ)作ってアメリカに送って雑誌を買っていた。つまり自社で制作、印刷、販売までの大半の業務をこなしているのだ。
その結果として、アメリカの雑誌は非常に価格が安い。TIMEの日本版が書店で一冊840円。アメリカ版は年間購読52号+4号はオマケで56冊で合計20ドル。しかも送料込み。新聞スタンドで買う価格の1/10(笑)。一冊あたりたったの32円。月間のナショナルジオグラフィックは年間購読だと15ドルで一冊1.25ドルだから107円。日本版は年間購読でも8100円。価格差ジャスト6倍!!
アメリカの雑誌に数百万部というのがざらにあるのはこの価格のおかげだ。取り次ぎも書店もほとんどマーケットに影響を与えない。部数が多いから単価も下がる。日本のように店頭に並んでいる雑誌の多くが実売数千部なんていう世界ではないのです。
で、これらはZINIOで電子版も販売されている。いくらかというと、ほとんど印刷版と変わりがない価格だ。しかし日本で購読することを考えると、めちゃくちゃ安い。日本で一番影響を受けるのは海外雑誌を販売している書店さんでしょうね。ZINIOが先日の日本のイベントに出展していたそうだが、日本の雑誌をZINIOで売れるわけ無いじゃんと思います。世界中がその価格差に目を剥きますよ。ZINIOにはインドやスペインやイタリアやアルゼンチンなど各国の雑誌も販売されているのだが、高くても年間購読なら一冊2〜3ドル程度で、いかに日本の雑誌の価格が突出して高いかすぐわかる。こうした電子雑誌はつまりは、安いから買うという流れではなくて、欲しい雑誌を世界中から探せるとか、バックナンバーをいつもiPadやPCに入れておきたいとか、雑誌がたくさん貯まるので捨てるのが面倒とか、ポストに入りきらないとか、引っ越しをするときに面倒とか、そういうニーズに適合しているのである。
つまり・・日本の雑誌は世界では携帯どころではないほどガラパゴス化していたのだ。
最近iPadのアプリに出てきたばかりの「雑誌オンライン」だが、電子雑誌の価格は印刷物と変わらず、そのうえ電子書籍が用意されて無くてボタンを押すと普通の印刷の雑誌の購入申し込みにいくボタンしかないものも多数。アマゾンのアフリエイトアプリかいっ、と突っ込みたくなる。正直、終わってます。これは既存の雑誌を電子化して販売するということが日本ではいかにあり得ないかを物語っている。しかしこのままでは韓流ドラマ(聞くところによると国策で無料で配信もしているらしい)に日本のテレビ制作会社がぶちのめされたごとく、日本の雑誌はどんどんと終わっていくでしょう。今年だけで休刊になった雑誌はこんなにある。リクルートなんて印刷から完全に撤退モードです。
ではどうすれば、新聞・雑誌社は生き残れるか
私的には、いまは逆にチャンスだと思うんです。取り次ぎ、書店で販売する従来型の印刷媒体を無理に電子化しようとせず、全く別のモノを作ればいい。つまり売ろうと思っても書店では売れないものを作ればいいんです。そして直販する。扱おうと思っても扱えないモノなら取り次ぎからクレームは出ない。
新聞だったらどういうものなら買うか。わたしだったら年間でキーワード検索して記事を引っ張ってこられるものなら、そして出てきたものがPDF画像でなくてテキストでコピペできるなら、大枚払っても良い。「過去にこういう記事があったはずだ。いつだったかな」と捜したけど分からなかった経験は、誰にでもあるでしょう。雑誌でも同じで、年間でデータがまとめてあって、「阿佐ヶ谷 居酒屋」で検索したら関連記事がずらっと出てくるとかも、そういうものなら買います。つまり雑誌のままではなく、データベースとしてならお金を払う人はけっこういる。
まあこういうのはアイデアフラッシュのひとつにしか過ぎない。とにかく10年後に残っているのは、こういうアイデアを血の汗を流して形にしたところだけだと思います。わたしの遠い親戚に街の中学の指定学生服屋だった人がいて、子供が多くて学生服が指定されていたときは左うちわで景気が良かった(3月だけで1年分食えた)のだが、あれよあれよといううちに学生服がなくなり、そのままお店終了になったひとがいる。余力があるうちにのうのうとせず、次の手を打っておくのが有能な経営者だと思うわけです。