消費者が買うのは「機能」ではなくて「使用体験」や「ストーリー」(バルミューダはわかってる)

2015年11月8日

最近、日本の家電メーカーとかの地盤沈下が激しいわけですが、膝を1億回くらい叩きたくなった日経ビジネスのインタビュー記事を見つけたので紹介します。

「消費者はモノなんて買わない」家電ベンチャー、バルミューダ・寺尾玄社長の信念

いまや大手家電メーカーが恥ずかしげもなくコピーを作っている2010年に発表された二重羽根の扇風機

バルミューダ DCモーター 省エネ 扇風機 GreenFan Japan(グリーンファンジャパン)ホワイト×ブラック EGF-1550-WK 日本製
のメーカーさんであるバルミューダの社長さんだ。ずっとバラクーダと思ってました。すんまそん。

で、37800円もする扇風機なわけだが、自分は今年の夏、ダイソンのコレを仕事場に買いました。

今見たらダイソンのほうが高い。バルミューダのにしておけばよかったよ・・・・。だってダイソンの羽根のない扇風機、めっちゃうるさいし・・・

でだ。この高額扇風機をヒットさせたあと、このトースターも大ヒットさせたわけです。

バルミューダ スチームオーブントースター BALMUDA The Toaster K01A-KG(ブラック)

うちのトースターでチーズトーストを作ると、チーズの表面がこんがり焼けて、中はとろっとろに溶けていて、味が濃いんですよ。食べて温かいし、幸せじゃないですか。それが、空調と同じようなちょっとモダンデザインなところから出てくると、違和感があったんですよね。

食いたい・・・じゅる・・・

とまあ、飛びつきたくなる衝動を抑えているわけです。だってこんなの買ったら絶対パンばっか食べたくなる。極力炭水化物の摂取を控えている自分としては、自爆テロに匹敵する家電です。
このインタビュー読むと、この社長さんはなかなか凄い人物だと思いました。なんせ「扇風機が当たったのは単なるまぐれ」と言い切っている。しかしマグレでも鼻が高くなって自信過剰で失敗するのが一般人なのに、細かく消費者の心理分析をして導いた回答が

消費者はモノは買わない。体験を買う

というひと言なんでございます。
思うにデスよ。昔、Walkmanが大ヒットしたのも、音楽の世界がiPodによって変わったのも、WalkmanやiPodという「モノ」が欲しいんじゃなくて、WalkmanやiPodを使う生活体験がしたかったのではないかという具合にしっくりきます。まあ「消費者はモノは買わない」まで言い切ってしまうと、煙草やトイレットペーパーや洗剤みたいな日常的必需品、消耗品はどうなるんだになりますんで、

お金に余裕のある消費者はモノは買わない。体験を買う

と言い換えるといいと思うんですが、それでもまだちょっとすぐには飲み込めない感じだとは思いますので、ここで不肖私が素人にもわかるように落とし込んで解説させていただきたいと思います。早い話が「乗っかり」です。

上級消費者アピールするポイント

この場合の「上級消費者」とは、食うに困ってカツカツの貧乏な若者とか、生活保護世帯のようなケースを除き、ある程度自分の物欲を満たせる余裕のある人を指します。こういう人たちは「必要だから買う」の「必要」の部分が、「生活に必要」ではなくて「自分の満足度を高めるのに必要」なわけで、同じ必要でも「欲望」にシフトされております。

こうした消費者に対してのアピールとしては以下のパターンがあります。もっとあると思うけど

1 その商品を使った時の想像力をかき立たせる

これがバルミューダの社長さんのいう「体験を売る」なんです。言い換えると「使った場合の生活を想像させる」ということ。商品には「これを使ったら生活が素晴らしく豊かになりそう」という付加価値が必要です。商品じゃなくてサービスも同じ。

○iPod買って音楽聴きながら通勤したら楽しいだろうな
○スチームオーブントースターでチーズトースト焼いた日曜の朝
○1キロ1500円の極上グレードの新米炊いて佃煮で食したときの至福さ
○ヴィトンの新しいバッグで電車に乗った時の周囲のギャルのうらやましげな目線
○レーザーで顔のシミを取ったら周囲から若返りましたねと言われたり(俺だ)

みたいな商品やサービスが、これに適合すると思うんです。Xperia Z5も売れないしソニーはスマホから撤退するんじゃないかとも感じるわけですが、これが全然ないの。Z5に買い換えたらどんな素晴らしい生活が待ってるとか全く感じない。iPhone 6sがたいして売れてないのも同じでしょ。6から買い変えても指紋認証が早くなるだけじゃ全然生活が変わる気がしない。5s→6のときは画面が大きくなってゲームや読書が楽ちんになると想像ができたから売れた。
高機能にするより、使った時の生活の楽しさをイメージできるほうがいいんじゃない?

日本の家電メーカーさんも、昔は「テレビが家に来たら生活が楽しくなるだろうな」「冷蔵庫が来たら毎日新鮮なおかずが食べられるな」「洗濯機が来たらお母さんが楽になるな」とかあったわけですが、いまの家電にはそんなものがまるでない。数年前のヒットのシャープのプラズマクラスターは「コレが来たら花粉症が楽になるんだろうな」というのはありましたな。ダイソンの扇風機はスペースを取らないというのがいいんですよ。部屋が広くなるという体験が想像できる。

P24500033
部屋が広く使えるのでその点は非常に◎

よって、大ヒットのスマホを生み出したかったら自分は「画像が綺麗」とか「処理速度が速い」とか、いまのスマホがとんでもなく昔の機種でも無い限り、成熟した社会では使った時の想像力がかきたてられないものは売れないと思うんですよ。ならば「3日間充電がいらないスマホ」のほうが使った時の生活が想像できて売れると思うんだけどなぁ。

そういう意味で

うちのトースターでチーズトーストを作ると、チーズの表面がこんがり焼けて、中はとろっとろに溶けていて、味が濃いんですよ。食べて温かいし、幸せじゃないですか。

という社長さんの言い方は巧い。グルメ系の飲食店でもオーナーは総じてこういう表現が巧い。

2 その商品を所有した時の満足度をかき立たせる

付加価値のある商品を買うレベルの消費者には「使用する体験より所有する体験」という人もかなりの比率でいるはずだ。
下は悪霊払いの壺から、上は別荘やクルーザーまで、幅広いよ。別荘なんて毎週使うかといえば、最初のうちこそしげしげ通うがすぐに飽きて年に数回しかいかなくなる。これは1の「使用する体験」のために買うレベルの人だが、中には全然使わないのに何軒も買う人もいる。スーパーカー買ってもほとんど乗らない人もいる。自分も40歳の時に大型二輪免許取得してハーレー買いましたがまさにコレでした。2年所有して1000キロしか走らなかった。
これがまさに「所有する体験」を求めたわけですね。サーフボードだって20万円以上のをオーダーして数回しか乗ってないままケースにいれてるのがあります。

AIBOやペッパーくん買った人だって四六時中しゃべってるとも思われないので、この口じゃないか。

で、こういう人たちは「商品」を買っているのではなく「ストーリー」を買っているのだと思います。誰がどのようにしてデザインして開発したとか、世界で何個限りの限定生産とか、そういうストーリーを買う訳です。Apple信者が買ったApple Watchはこのケースが多かったんじゃない? どうしても使いたいというわけじゃなくて、Appleが開発したものだから欲しいみたいな・・・

どこよりも安い! みたいな消耗戦は体力のある大企業にはいいけれど、中小企業では楽しくない。であれば、「うちの商品(サービス)を使うとこんなに楽しい生活が待ってる」というのが王道ですね。で、日本の家電大手とかがダメダメになっちゃったのは、経営陣にこうした顧客視点が欠けてるからではないかと思うわけですよ。

で、以前わたくし「洗濯、乾燥だけではなくて、乾燥したら畳んでくれる洗濯機が出たら売れる」って書いたのですが、日本のメーカーさんから出てきましたぜ!!!

全自動洗濯物折りたたみ機「laundroid(ランドロイド)」の実演デモを見てきた!

これはちゃんと製品化されたら売れるよ。だって単身者や主婦は「洗濯機に入れたらあとはなにも整理しなくても畳むまでやってくれる生活で時間に余裕ができてテレビも見られる」を想像しちゃいますからね!!

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