あまりに面白いメルマガ質問が来ましたので、ブログで取り上げることにしました。これは一般に公開した方がいいでしょう。メルマガだと数週間かかるので、それじゃ手遅れっぽいし。ww
質問内容
トンデモさんに困っています。
私は建設会社に勤めております。営業マンが見込み顧客を定期的に訪問しやすいように、フリーペーパーを作成することになりました。その製作チーム(5名)の一員として選ばれ、記事のネタを考えることになったのですが、そこで問題が発生しました。なんとメンバーにトンデモさんがおり、「水素水の特集にしよう!」と言い出したのです。毎日飲んでいるから効果を実感しているし、水素水を推奨している大学教授の取材アポもきってある、と…。
科学的な根拠が一切ないし、個人のブログじゃあるまいし、会社の名前を使ってそんなもの作るわけにはいかないと私が言っても、「そんなことはない」の一点張り。他のメンバーも「まぁ別にそこまで目くじら立てなくてもいいんじゃない?」という具合です。このままだと賛成多数で押しきられそうなのですが、永江さんならどうやってこの暴挙を止めますか?
私は
◎水素水になんの効果もないことを示す資料
◎企業がデマを軽々しく広めることのデメリット
この2つをまとめて役員に直談判しようと思っています。この際、製作チームの人らから嫌われるのは覚悟の上です。妙案があれば是非ともご教授ください。宜しくお願いします。
回答
これは大変ですねぇ・・・・・。
最初に結論から言うと、仮にこんなトンデモのフリーペーパーなんぞ配布しますと、あなたの会社は
めちゃ怪しい会社
としての位置づけがされるでしょう。仮に私なら、そんな馬鹿会社と取引するのは止めます。まるで建設会社の担当者が「ちゃんとお祓いすれば建設中の事故は100%起きませんから、キリッ!」と、言うみたいなものです。
トンデモさんたちは自分たちの価値観の中だけで生きています。ですので「トンデモを不愉快に思うのは主に知識層 → つまりお金がある層」ということがわからない。あなたの会社がパチンコ屋なら店舗で水素水配って「みなさん、頑張って行きましょう」とアナウンスすれば喜んでもらえるし、同様にエステとか、ギャル系サロンとか、放射脳の集いとかならいいでしょうが、建設会社ですよねぇ・・・・。
先日も某フリーマーケットで「生きてる酵素」というのを瓶詰めにして即売している怪しいカップルがいました。こういうクラスタって陰気くさそうであまり健康には見えないのですが、酵素って「化学物質」なんで生きていたら生物学がひっくり返ります。ジアスターゼ(アミラーゼ)っていうのが一番知られている酵素だと思いますが、こんな生物がいると思ってるんですか。
↑アミラーゼの構造なんですが・・・
酵素の定義は、生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子。生物じゃないのです。生物は「酵母」!!!「酵」の字がかぶってるだけで全然違うものです。よって「酵素ドリンク」には酵素ははいってません。酵母は入ってるかもしれないが、そんなに酵母食いたいなら味噌食ってなさい。そのほうがずっと濃い。強力わかもとかエビオスでも飲んでたほうがよほど効果的です。
【悲報】トンデモには「理屈で説得」は効かない」
まずあなたの対処の方法ですが、完全に間違っています。なぜならトンデモ集団には理屈は全く通用しないからです。水素水というのは昔で言う「アルカリイオン水」を言い換えただけのものです。これが「効いた」とされる事例はネズミの実験でたった数例だけです。しかも特殊な状況で抗がん剤の効果が少し良くなった程度のもの。アホか。
素朴な疑問「水素水って健康によいのですか?」には「いいえ、あなたが期待している効果はありません」とお答えします。
人間の実験では「効果はなかった」というものはあります。日本医大の大田成男教授が水素水が将来的に可能性があるとネイチャーで発表され、それが日本で水素水ブームになったわけですが、ご当人のブログには
(1) ペットボトルの商品で水素がちゃんと入っている商品はいままでありません。
(2) フタをあけても、水素が抜けないというのは、水素ではありません。
(3) 沸騰させても水素が抜けないというのは、インチキです。
(4) サンゴカルシウムや牡蠣カルシウムに水素を吸蔵させたと称しているもので、ちゃんと水素を発生したものはありません。
(5) シリカ(二酸化ケイ素)には、水素を吸蔵させる事はできません。
(6) 入浴剤で、窒化ホウ素いりと書かれたものがありますが、窒化ホウ素では水素は発生しません。
(7) 化粧品成分として登録されているものは、MgH2(水素化マグネシウム)だけです。
と、ほとんどの商品がインチキであると断定されちゃっております。www
つまり、あなたの会社のトンデモさんが飲んでるのもインチキです。
根本的に「水素水になんの効果もないことを示す資料」を出すのはあり得ないです。これは「悪魔の証明」といいます。逆に「効果があった証明を相手に出させる」のが筋ですが、そんなものは世界中どこにもないので相手は出せませし、出す気もありません。トンデモには理屈はこの世に存在しないからです。向こうにあるのは
自分には効いた。自分が証明だ
ということだけです。
「教祖様の言うとおりにしたら病気が治った。教祖様は生き神だ」
「毎日、酒飲んでるが病気になったことがない。酒は万病の薬だ」
と主張するのと同じレベルです。本人はマジで信じている。
馬鹿は暗示にかかりやすい
という、救いがたい現実があるわけです。
新薬の実験は、グループをふたつに分けて、ひとつは正しい薬、もうひとつのグループは偽薬(プラシーボ)を与えます。これで効果の差を見るわけですね。で、偽薬のグループも「画期的な新薬の実験ですよ」といって飲ませると効果が出るわけ。しかも40%とか出ることもあります。
思い込みが引き起こす「プラシーボ効果」がいかに強力かよくわかるムービー
なので本当の新薬の効果が偽薬のグループより明らかに効果が上回った場合に認可が与えられるのです。プレシーボ効果を金儲けに利用しているのが水素水とか、酵素とか、ホメオパシーなどのニセ医学なわけですよ。トンデモさんたちは馬鹿なので洗脳されやすく、プレシーボ効果が十分に出るわけです。そして次の獲物を開拓する手伝いをします。
あなたの会社がこの「偽医学」を賞賛するフリーペーパーを撒けば、あなたの会社がこのインチキビジネスに荷担することになるわけです。しかし、洗脳されているトンデモさんたちには理屈は通用しない。そもそも理屈が分かっているならこんなことに洗脳されない。なのであなたがやるべきことつひとつ。経営陣に
会社の社会的信用を損なう可能性があることはすべきではない。
という上申書をあげ、まともな制作チームの人選を行うように説得するしかありません。
企業や団体が大恥かいた事例はたくさんあります。
消費者庁、「酵素ジュース」のレシピをクックパッドで紹介、即日削除 「食中毒恐れがある」と指摘受け
消費者庁が大恥かいて、内部にトンデモがいることを露呈してしまいましたが、消費者庁の管轄団体の国民生活センターでさえ、
「水素水生成器」に国民生活センターが注意呼びかけ 「健康効果なし」
水素水について3月10日、国民生活センターは「飲用による効果を表したものではありません」と指摘して、消費者に注意を呼びかけている。事業者のホームページやパンフレットには、その表面的なイメージとは異なり、重要な事実が記載されているというのだ。機械を通して得られる水は、あくまでその水の中のヒドロキシラジカルを抑制するにすぎず、示されているヒドロキシラジカル抑制率のデータは、人体に対する効果・効能を表すものではないという。つまり、機械によって生成された水素水は、活性酸素が抑制されたものであるということは事実だが、それを飲んだからといって体から活性酸素が抑制されるわけではなく、ひいては健康増進に寄与するわけではないということだ。
と、「人間が飲んでも効果ないよ」という断言もしています。アフィリエーターさんたちは必死に「効果ははっきりしてないというだけで、飲んでよくなるならそれでいいじゃないか」とか詭弁を弄してますが、それって「イワシの頭にお祈りしたら体調が良くなるならイワシを拝もう」と言ってるのと同じ。違うのはそこにどす黒い金儲けが存在することだけです。全国各地の消費生活センターには、15年までの5年間で220件もの相談が寄せられており、うち「ガンが治る」と言われたなど販売方法についての苦情が157件も占めていたそうな。
役員や経営陣を説得するのであれば、こうした国の見解を示すのが一番。権威に弱いからです。トンデモさんたちは「それでも地球回っている」と言い続けると思いますのでスタッフから外すことをお薦めします。
トンデモに疑問がある方は、これくらいは読んでおくとまだ洗脳されるまでに達していない友人を救うことができます。